<1> オープニング
  私は馬主だ。自慢じゃないが、たくさんの馬と一緒に暮らしている。さて、ここで問題。私の馬は一体どんな馬か?次のヒントから当ててみてほしい。

 私の馬は遥かモンゴルの生まれ。尻尾の毛は約100本ずつ2束にまとまり、胴体は角張っていて、なんと足がない。決定的なヒントを付け加えるならば、この馬、頭から下は楽器である。

 正解は、モンゴルの伝統楽器「馬頭琴」。モンゴル語では「馬の楽器=モリン・ホール」である。この楽器は、上端に馬頭の彫刻が施してある。ひざの間に立てて弓を使って弾くので「草原のチェロ」とも呼ばれるが、弦の数はたった2本。そして弓だけでなくその弦も、馬のしっぽで作る。ボディは遊牧生活の質実剛健さを感じさせる台形の直線的フォルムだ。

(c)ぽん田中 愛馬の死を悼んでこの楽器が作られたというモンゴル民話は日本でも絵本などで紹介されている。「スーホの白い馬」といえば、赤羽末吉さんの絵とともに思いだす方もいるのではないだろうか。

 私はこの馬頭琴と喉歌(のどうた)の演奏を生業にしている。喉歌というのは、1人で同時に複数の音を発して音楽を奏でるちょっと不思議な歌唱法だ。モンゴルの「ホーミー」やトゥバ共和国の「フーメイ」など、アジア中央部に起源を持つ。馬頭琴や喉歌の音楽は、エキゾチックでありながら心の奥底にアジア的共感を呼び起こし、ここ数年の間に随分とファンを増やしてきている。さらに、私を含め日本人奏者も少しずつ現れ始め、新しい音楽ジャンルとして、にわかに活気づいてきた。

 そんな音楽に関わっているせいか、演奏活動を通じて何とも愛すべき人々や面白い出来事に遭遇する。愛馬と一緒に続けている私の音楽の旅を、このコラムで毎週少しずつご紹介していこう。

 嵯峨治彦のおうまさんといっしょ
 <1>オープニング
2002/01/11

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