<13> ラーメン食べたい
  モンゴルに「トプショール」という、三味線を小さくしたような楽器がある。基本的に歌の伴奏で2弦を交互に爪弾くだけの素朴な楽器だが、ホーミーを交えた自然賛歌などには、この楽器のポコポコこもった音色が欠かせない。
 この楽器の胴体には、長方形、台形、円、レモン型と色んな形がある。私が昨年入手したものは胴体が大きな木製の椀〜つまり「木の丼」でできていた。これに表面板として羊の革が張ってある。

 音のこもり具合がイマイチだったので、表面板の一部に布テープを張って音色を調整した。ついでにそのテープでモンゴルの伝統的な模様「ウルジーヘー」を描いてみた。ひし形を一筆描きでつないだようなこの模様は幸福を象徴するという。我ながらナカナカの出来栄えだ。さらに、もう一つの代表的なモンゴル模様「アルハンヘー」で胴体の縁をぐるっと囲んでみた。この模様は基本的にはアルハン(ハンマー)が互い違いに連鎖した帯状のもので、力を象徴する。生まれ変わった私の楽器は、「ラーメン丼」そのものだった。

(c)ぽん田中 実は私は大のラーメン好きだ。学生時代は体細胞の1/3がラーメン(札幌・桑園の華龍)からできていた。現在は演奏旅行の先々で必ず食べる。アタリもあるが札幌ラーメンのレベルの高さを再認識することも少なくない。

 札幌ラーメンは、もちろん中国の拉麺に起源を持つが、日本人の味覚と札幌発の独創的アイデアのもとで進化した、新しい食文化である。喉歌や馬頭琴をはじめ外国の伝統音楽を日本人がやって行く場合、様々なアプローチがあるけれども、外国文化の輸入→創造的発展を見事に果した札幌ラーメンは、一つの可能性を示唆している。我がラーメン・トプショールはその象徴であって、悪ふざけではない。

 と、まぁ冗談が通じない時にはこう説明することにしている。

嵯峨治彦のおうまさんといっしょ
<13>ラーメン食べたい
2002/04/05

 

 ちなみに、この模様、モンゴルではいろんな「ふちどり」に使われることが多いのだが、建物に使われることも。写真はズーンモドのある建物。別にラーメン屋さんではないのだが、ゴビ帰りの著者はついつい丼を持ち箸を構える白昼夢。嗚呼。


2002夏 ズーンモド(ウランバートル近郊)

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