<14> 宴会デビュー
  ここ数年、馬頭琴を始める日本人が増えている。うれしい事だ。

 楽器初心者には、越えなければならない大きな壁がある。それは人前で弾く時の緊張感だ。とりわけデビュー戦には大きな緊張が伴うものだが、一つ良い方法がある。それは「宴会デビュー」である。音楽と酒の相互作用がもたらす和やかな雰囲気は、シーンとした「発表会」等よりも、あたたかく実力を引き出してくれる。

 以前、馬頭琴ファンのIさんと共催した馬頭琴合宿は、昼はワークショップ、夜は宴会デビューという良くできたイベントだった。

 馬頭琴の初心者コースには数名が参加した。課題曲は「メリーさんの羊」。羊以外モンゴルとは何の接点もないが、限られた時間で練習するには、良く知られた曲が良いのだ。またこの曲の音階は、モンゴルの民謡音階(ドレミソラ)と同じなので、指使いの基礎を練習する上で非常に実践的だ。

(c)ぽん田中 馬頭琴は、馬のしっぽの毛を束ねた太い弦のおかげで、初心者でも比較的音が出し易い(もちろん音色を安定させるには基礎練習を要する)。楽器の構え方から始まって2時間、参加者の努力の結果、課題曲は一応の完成をみた。

 さて合宿の後は宴会である。酒が進むつれて、歌、楽器の演奏、踊り…と合宿参加者による様々なパフォーマンスが繰り広げられた(宴会のみの参加者も少なくなかった)。

 満を持してついに初心者コース参加者全員による馬頭琴合奏団が登場。その名も「メリーズ」。数時間前に初めて馬頭琴を手にした彼らの奏でる「メリーさんの羊」は、まるで赤ちゃんが初めて立って歩くように、少しぎこちなく、そして感動的だった。合奏によって馬頭琴の音色は調和を深め、さながらゲルの中に広がる遊牧民の大合唱のよう。彼らの演奏には、この日の宴会で一番大きな拍手喝采が湧き起こった。

嵯峨治彦のおうまさんといっしょ
<14>宴会デビュー
2002/04/12

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