「大草原の歌声 喉歌に魅せられて」
スポニチ北海道版 コラム「あの人この人北海道とってお記」 より
★1★ トゥバ民謡 − 人間の声?不思議な唱法
(1998年 8月15日掲載)
アジア中央部に広がる大草原。そこに暮らす人々に古くから歌い継がれている不思議な唱法がある。モンゴルの「ホーミー」やトゥバ共和国の「ホーメイ」をはじめ、アルタイ山脈周辺の国々に見られるその歌い方は、一般に「喉歌」と呼ばれており、一人の人間の喉から同時に複数の音を出しながら歌うことを大きな特徴としている。 唸るような一定の声に加えて、笛のように鋭く高い音が軽やかにメロディを奏でる。テクニックによっては、ビブラートの利いたオカリナのような音や、普通の歌い方では不可能な音域の低音が加わることもある。 いつ、どこで、なぜこのような歌い方が誕生したのかは、よく分かっていない。はっきりしているのは、それが古い歴史を持ち、遊牧民の生活の中で大切に歌い継がれてきたという事実である。 初めて喉歌を聞く者の多くは、その不思議さに自分の耳を疑ってしまうだろう。しかし喉歌の存在を事実として受け止めることができれば、喉の持つ可能性や音色の美しさに魅了されてしまう。 今年7月、トゥバ共和国において、第三回国際ホーメイ・シンポジウムが開催された。民族学的な研究発表会の他に、国際的な喉歌コンテストも開かれるこのイベントは、喉歌界のW杯とも言えるだろう。私も参加者として初めてトゥバを訪れた。「アジアの中心」に位置するこの国で大草原に立った時、ふと思った。すべては今から六年前に手にした一枚のCDから始まったのだ。 そのCDには二曲のトゥバ民謡が収められており、私は生まれて初めて喉歌を聞いた。今でこそ喉歌の美しさに心惹かれているが、その時は現象の余りの特異さに恐ろしいとさえ感じた。本当にこれが人間の声なのか?どうやって、こんな声を出すのだろう?わき上がる好奇心を抑えきれず、翌日からその答えを探し始めた。つまり、喉歌の練習を始めたのである。 |
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のどうたの会 嵯峨治彦 thro@sings.jp