Chatkhan and Khai

草原の吟遊詩人
～アジア中央部（南シベリア）
　ハカス民族のチャトハン（箏）とハイ（喉歌）日本公演
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●チャトハン（箏）とハイ（喉歌）●

　ハカスを代表する民族楽器チャトハンは、日本の箏（いわゆる琴）、韓国のカヤグムなどと同じ、ロング・ツィター族の楽器である。長さ約百二○�ほどの箱形の共鳴胴の表面は平らで、7本の金属（元来は羊の腸）弦をもち、柱には羊の膝の関節を使用している。この楽器は、本来英雄叙事詩アルィプティハ・ヌィマハを語り歌う伴奏に用いられた。叙事詩には、数晩から数週間にわたる長大なものもあり、演唱において言葉を間違えたり、筋を混乱したり、途中で終わったりすると、語り手の命が縮むと言われていた。そして、このときに使用される特徴的な歌唱テクニックが、ハイと呼ばれる、喉歌の技法である。

　喉歌は、別名倍音唱法、一人二重唱などとも呼ばれ、その名の示すとおり、一人の人間が二つ以上の音を同時に出す超絶技巧で、日本でも最近注目されるようになったものに、西モンゴルのホーミー、トゥヴァのホーメイがある。また、近隣のアルタイやショール、少し離れるがバシキールにも同様の歌い方がみられ、「アジア中央部」に顕著な音楽事象となっている。

　ハカスのハイには、低音のチョーン　ハイ、中音域のハイ、高音のスィグィルトィプの3種類がある。浪曲のような、あるいはアメ横で聞かれるような、喉をつめた低い声と同時に、口笛のような、高い音域のメロディーがどこからともなく聞こえてくる。このような超自然的な、力をもった歌唱法を、ハカスの人々は、死者を喜ばせる歌い方と考えた。このため英雄叙事詩の語り手＝ハイの歌い手＝チャトハンの演奏者は、伝統的には葬式の後の故人の追悼の催しに呼ばれていっては演唱を行っていた。本来はチャトハンには裏板がなかったのも、地下に眠る祖先の霊とともに音楽を楽しむためであった。現在では、チャトハンは、一般的な歌謡の伴奏にも用いられており、9～13弦の楽器を使用する演奏者もでてきている。

　チャトハンと同系統の名称をもつ琴は、トゥヴァのチャダガン、トファラールのチャッティガン、カザフのジェティゲン、モンゴルのヤタッグなどがあるが、これらの民族の間では、英雄叙事詩とは必ずしも結びついておらず、また民族楽器ナンバーワンとしての地位も獲得してはいない。

　1996年6月には、チャトハンをテーマにした国際シンポジウムが、共和国の首都アバカンで開催されている。 →ハカス共和国のチャトハン（箏）シンポジウム

　このほか、ハカスの主要な楽器として、2弦の撥弦楽器ホムィス、金属口琴ティミル　ホムィス（鉄のホムィスの意）、シャマニズム儀礼で使用される枠太鼓テュルなどがある。

　ハカス民族の伝統音楽がこれまで日本で紹介されたことはほとんどなく、わずかにNHK教育テレビ「ETV特集　よみがえる民族音楽　第1回チュルク民族音楽祭から」（1994.7.6）で断片的に紹介されているのみである。

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