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Aisan Wings Tour in NORWAY

A Labyrinth with no Exit

 

 今回の旅は、なぜか非常口のマークが気になった。

 

日本ではこういうマークでおなじみ。


Japan

 見慣れていて、もう何の変哲もないデザイン。でもよ-く見ると、いろんなことが分かってくる。

 まず気がつくのは人間が非常ドアを駆け抜けつつある、現在進行形のイメージであるということ。この人間を脱出中の自分と重ね合わせならば、ほぼ脱出に成功したことをほのめかす楽観的な図柄といえるし、もし自分でないとしても、すでにうまく逃げおおせている成功者に続けばいいや、という考え方が見え隠れする。

 前々回の国勢調査でこの図の「人間」のセリフを想定するアンケートがあったが、結果的にはおおかたの予想通り 「お先に失礼」が約6割、「黙って俺について恋」が3割、そして残りの1割は 「ムーンウォークは足を床から離さない」であった。

 それから図柄的には、手先の丸めや、足先の角度の処理に、繊細さを感じる。あと、壁と床が立体的に描かれているのにも注目したい。後述の他国のものと比べると分かるが、抽象化されているようで、まだ写実的な部分が残っている。

 ・・・とまぁ、非常口マークに国民性を読み解くのも不可能じゃない。

 

 さて。それでは、今回旅の途中で遭遇した非常口マークを見ていこう。

 

 まずは乗り継ぎで一瞬立ち寄ったドイツ、フランクフルトの空港。


Frankfurt airport, Germany

 なんだか、手足が長い。気がする。この体型にそぐわないと脱出できないんじゃないか、なんて不安になるのは、やはり今回が初渡欧の東洋人だからだろうか。

 それと、手先、足先は直角のまま。なんとなく質実剛健さが漂う。それから立体感を感じさせる描写はまったくない。加えて、ドアは白抜き長方形だけの単純な描写なので、矢印「→」を書き込むことが必要となるわけだ。そしてこの矢印は、「人間」と「非常口」の間に厳然と存在し、一刻の猶予も許されない「脱出」という行為を力強く訴えている。日本のマークに比べれば、大味ではあるが、より単純化され、より切迫した状況を描写していると言えるだろう。

 この空港待合室のメタリックな天井とあわせて、ドイツらしくてゼア・グート。ダンケ・シェーン。ゾーリンゲンのぽんぽこピ。

 

 そこから北へ飛んで、ノルウェーの首都、オスロの空港へ。

 おおお!同じヨーロッパでも、だいぶテイストがちがうぞ!


Oslo airport, Norway

 

 ノルウェーがEU未加盟だからかどうか知らないが、なんか、体型的に親しみが持てますね。全体的にずんぐりしてて。たまたま、モデルが東洋人だったのだろうか。

 


Edderkoppen hotel, Oslo

 

 ほかの場所でもこうだった。

 うーむ、北方民族は、体からの熱の放出を防ぐため、表面積を減らすべく手足を短くする方向に進化したという説があるけど、非常口のマークでも正しかったわけだ。内部の蛍光灯の持ちがよくなったという話もある。

 

 でも、この非常口マーク、矢印の使い方が、どうも解せない。表示と実際の非常口の関係は、たとえばこういう風に使ってある。


Oslo airport, Norway

 これは、「真下↓のコレが非常口ですよ」とか「回転ドアには左から走って入れ」とか言っているわけではない。真っ直ぐ進めば出られるぞ、と言っているのだ。つまり、描かれている「人間」と「ドア」の位置関係よりも、その間の「矢印」の方向が重要となるわけだ。

 

 自分が今いる位置から、表示をみながらどのように誘導されるべきかを、ノルウェー北部トロムソ市のホテルに見てみよう。

 

 たとえば、まず目にはいる表示が次のようなものだった場合、


Rica Ishavs hotel. Tromso

右に行け、と言ってるわけだ。これは分かりやすい。右向け右。前へ進めー。

そんで、右に行くと、今度はこういうのがぶら下がっている。さぁ、どうする!?


Rica Ishavs hotel. Tromso

 「えっと…、さっきとは絵が逆向きなので、よし、こんどは左だ!」…と思ったら、ダメ絶対。矢印を確認しなくてはいけない。

 また、よしんば矢印の存在に気がついたとしても、「↓」は、「後ろに進め」ではないし、ましてや「床を掘れ」でもない。これは「直進」だ。日本人旅行者は要注意だ。

 普段意識してないが、日本では「直進」はふつう「↑」で表す。これをノルウェー人はどのくらいご存じなのか。

 立場を変えてみれば、日本の火災現場の焼け跡から、逃げ遅れたノルウェー人旅行者が、天井に頭がささった状態で発見されるという悲劇的な可能性もないとは言えないのだ。それを未然に防ぐのが国際理解教育の重要な責務の一つでもあるわけで、この分野の将来有望な研究者の友人に解決策を(以下略)

 それにしても、この最後の非常口マーク、きれいで少しみとれてしまった。厚い透明のアクリル板に夜光塗料で印刷されていて照明が側面から差し込んで全体が光るという凝ったデザイン。かなり芸術点が高い。さすが北欧のデザインだなぁ。

 しかも、非常口マーク自体がドアのガラスに映り込むように設置されているではないか。いわゆる合わせ鏡の状態。個人的にこういう反復系の表現には弱い。嗚呼!できることなら、マークとドアの間にこの体を滑りこませて、無限に続く出口だらけの迷宮(ラビリンス)を彷徨いながら、ムンクの叫びが聞こえてくるまで心惑わされてみたかった。

 

 自称非常口写真家となっていた私だが、実は、オスロの空港で非常口マークを物色し撮影を繰り返していた時、なんと女性の私服警官二人に呼び止められてしまった。この善良な東洋人の、どこが不審だってんだ。パスポートの提示を求められ、職務質問まで受け、慣れない英語で「て、天井がきれいだったから…。」などと答えてしまったではないか。

 今にして思えば、やはり抱えている楽器の袋が、多少ライフルっぽい形に見えていたのかもしれない。しかも、いつのまにか獲物を狙うハンターの目になってしまっていて、どうやら危険な男の匂いってやつを感じ取られてしまったに違いない。

 機内で佐伯さんに借りて読んだゴルゴの影響を引きずっていたのかもなぁ。


 用件だけ聞こう。俺の背後に回るな。

 それにしても、「非常口」って結構人気アイテムなのだなぁ。ググってごらん。


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