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『ゆんでめて』

(2000年 1月27日 NNL Vol. 21)


 弓手(ゆんで)と馬手(めて)。弓を持つ手と、馬を操る手綱を持つ手のことで、それぞれ左と右の手を意味する。戦に於いて、馬上で矢をつがえ引き絞るという大切な目的に利き手(右)が用いられたことが、そのまま言葉に映し出されている。

 弓奏楽器に於いては、右手は弓を持ち、左手は弦を押さえる。一見これは不自然に思える。というのも、音程を定め、ビブラートをかけ、装飾音を交えるという複雑な動作に、利き手ではない左手の指を総動員するのだから。右手の方は、弓の根元の所定の位置に指を添えているだけだ。

 しかしこの左右の分業は、実は弓奏楽器の極意そのものである。即ち、確かに音程や装飾音も大事だが、多様な音色を生み出し何かを表現するのは、結局のところ弓の動きなのだ。その大切な目的のためには、注意深く利き手を用いて然るべきである。

 馬頭琴の場合は弓手で馬を持ち、馬手で弓を持つので些か複雑だが…、人の心を射抜く音色を放つのは、やはり利き手の仕事なのである。

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のどうたの会 嵯峨治彦 nodo@ma4.seikyou.ne.jp