●ヨンドン・ネルグイ

 バトサイハン、ドプチンに続いて、我らがネルグイさん(55)のご登場。

  彼のように学校などに行かず聞き覚えで馬頭琴を極める昔ながらの演奏家は今や少数派である。ネルグイさんのプロフィールは、公式サイトの方で見て欲しい。追加情報としては、ネルグイさんがモンゴルの人間文化財に指定されたってことかな。彼のモンゴル国内での評価が高まってきたのは、まことに喜ばしいこと。馬頭琴の本質を知る上でネルグイさんの存在は無視できないはずだから。

   ネルグイ公式サイト;
      
      http://tarbagan.net/nodo/nergui/

 

 そんで、彼のライブだが・・・やはり彼のアーティスト・パワーは本物。これまで登場した一般的な意味での「有名な」馬頭琴弾きのライブに比べても、勝るとも劣らない素晴らしいパフォーマンスを披露してくれた。

 この日のネルグイ・ライブには、馬頭琴三昧ツアーの旅仲間だけでなく、このツーリストキャンプに滞在している欧米人も数人観客としてやって来た。ちなみに有料・・・昨日と一昨日は無料で来て写真だけ撮っていこうとするようなマナーのない人がいて結構困ったから。それはともかく、解説は日本語だけだったので、欧米のお客さんは純粋に音楽だけを聴いていたことになるが、彼らの反応はとても良かった。不思議なもので、演奏上の見せ場をちゃんと理解していたし、何よりとても楽しそうに聴いていたのだ。

 また、この国立公園を紹介するためのビデオの撮影にオランダの女性カメラマンがやって来ていた。この日のライブや後半のセッションなどが、このツーリストキャンプの「ひとこま」として紹介されるという。

■「ナイラムダル・マクタール」
 1曲目は友好を讃える社会主義時代の歌から。ネルグイ節の堪能できる曲。

■「集団農場への道」
 ネルグイさんは5才で弦楽器(当時はもちろん「馬頭琴」なんて名前もなかった。ゴビでは単にヒル=弦楽器と呼ばれていたそうだ)を自作して弾いていた。その自作の楽器は弦が1本しかないもので、左手は人差し指1本だけで音程をとって弾いていたそうだ。で、この曲では1番を当時の奏法=1本指奏法で、2番を通常のネルグイ奏法で弾くというもの。メロディもアレンジも楽しい。

 これも社会主義時代の歌なんだろうね。なんか大好きな「ゲルニカ」っぽいタイトルだなーなんて思うけど、あ、話が逆か。

■「フフーギン・ドー(ソロ・バージョン)」
 映画音楽のカバー。ネルグイ奏法炸裂。2005北海道ツアーから前奏にスローなパートがつくようになった。
 第2部でもセッションで再び演奏。

■「白いちぎれ雲〜人類(鉄道唱歌)」
 軽快で楽しいアレンジ。

■「シン・ジル」
 ネルグイさんの十八番。

■「ナサンさんの詩の朗読のための曲〜ジョノン・ハル(ソロ)」
 奥さんが詩を朗読するときに伴奏するためのオリジナルのスローバラードから、ネルグイ・ジョノン・ハルへのメドレー。
 器楽曲としてのジョノン・ハルでは、やはり彼の演奏が一番好きだなぁ。

■「オールガン・シャリン・ドモグ」
 ラクダの走る様子。ゴビの遊牧民ならではの写実的な演奏。いつも思うんだけど、たとえば内モンゴル馬頭琴奏者ハスローさんの名曲「走るラクダ」が、まるでディズニーのアニメのようにデフォルメを効かせてラクダを描写しているのに対して、ネルグイさんのラクダは、まさにドキュメント・フィルムのよう。鳴き声なんて、ぞっとするぐらいラクダそのものだ。

■「ウルールテェ・ハルタル」
 タンタカ、タンタカの馬のリズムの曲は、いろいろあるけれども、この曲の渋さは独特。歌が入るのもかっこいいなぁ。
 最近つくづく思うんだが、やはり馬頭琴奏者は、少なくともソロライブを成立させるためにも、歌ものをレパートリーに持っていた方が良いと思う。90分のライブを馬だけって、よほど好きな人じゃない限り、ちょっとつらいと思う。

■「ビエルゲー」
 いくつものビエルゲーのメドレー。淡々とリズムが変わっていく。トンコリの面白さに通じるものを持っているジャンルだと思う。くどいようだがビエルゲーは馬頭琴の未開の沃野。

■「ウーレン・ボル(ソロ)」
 8分音符だろうが16分音符だろうが、すべて全力で弾くのがネルグイさんのウーレン・ボル。

■「ジャラム・ハル」
 この曲もネルグイ奏法で弾きこなす。

ここからの2曲はゲスト・ガンガンウルン・ムルンのオルティンドーとネルグイさんの馬頭琴。
ガンガンさんは24才の女性で、モンゴル文化大学でオルティンドーを学んだそうだ。今はここホスタイノロー国立公園のツーリストキャンプでスタッフとして働き、洗濯しながら歌を練習したりしてる。

■「深い海」
■「ウリムジン・チャナル」
 初対面であっても、キーのことなどちょっとの打合せだけですぐにやっちゃうところがすごいなぁ。さすがに初っぱなはちょっとおそるおそるという感じで始まったんだけど、すぐにのびのびと歌い始めるガンガンさんの歌。良かった。

 で前半最後はネルグイさんの歌。

■「夢のゴビ〜ゴビ賛歌」
 ゴビツアーへの参加者を増やすためにも「心を込めて歌いなさい」と友人達にはやし立てられる。

<休憩>

 後半は野外で。薄暮の草原をバックにした演奏は気持ち良かった。
 ガンガンウルー、pontana、嵯峨治彦が入れ替わりゲストに入る構成となった。

■「トーロイ・バンデ」
ネルグイ+ガンガンウルー(オルティンドー)+ネルグイ

■「夢のゴビ」
ネルグイ+ガンガンウルー(オルティンドー)+嵯峨治彦

■「ゴージ・ナナー」
ネルグイ+ガンガンウルー(オルティンドー)+嵯峨治彦

■「フフーギン・ドー(デュオ)」
ネルグイ+嵯峨治彦

 このときの演奏の現地録音はNHK−FMで放送予定。ぜひ聴いてね。

「ASIA POPS WIND」 NHK-FM
本放送:2005 9/12(月) 23:20〜24:20
再放送:2005 9/14(水) 10:00〜11:00
司会:関谷元子 ゲスト:嵯峨治彦

■「ツァガーン・サブラク〜ビエルゲー・メドレー」
ネルグイ+嵯峨治彦
 北海道ツアーで大分弾き込んだのに、この曲の展開部分ちょっと忘れてたんだよね。でもネルグイさんがしっかり覚えててくれたので無事に最後まで行けたのだった。

■「ウーレン・ボル」
ネルグイ+pontana(スプーンズ)+嵯峨治彦

■「ジョノン・ハル(デュオ)」
ネルグイ+嵯峨治彦

盛り上がった。いつの間にかたくさんのお客さんが取り囲み、ネルグイ奏法炸裂の曲では大きな歓声が上がった。ネルグイ・ライブはやはりネルグイ・ライブなのでありました。

この日のライブの出演者。セッション、たのしー。

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