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『 仏の力』

(1999年 2月28日)


 愛馬と出会って一年が過ぎた。私の愛用するこの馬頭琴は昨年T和尚に頂いたものだが、その時のお伽話のような出来事をご紹介しよう。

 演奏会でF市のお寺を訪ねた晩、住職であるT和尚のお宅に泊めて頂いた。通された部屋の床の間に、その馬頭琴が飾ってあった。聞けば二年前に仏教徒会議でモンゴルを訪れた折りに土産として買って来られたのだそうだ。現地の演奏家に厳選させた名器だとのこと。

 ところが、と彼は顔をしかめた。この二年間誰が弾いても、この名器からは音が出ないと言う。現地のイカサマ楽器商に掴まされたのではと怪訝そうだ。

 だが、一目で当時私が使っていたものより丁寧な作りだと分かる。試しに、と手に取って弾いてみた。T和尚も私も驚いたことに、楽器から大きく深い音が流れ出したのだ!

 T和尚は、この楽器は君を待っていたのだと、すぐにその名器を授けてくれた。こうして御仏の力で私と愛馬との付き合いが始まった。タルバガンのレコーディングはこの一週間後だった。

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のどうたの会 嵯峨治彦 nodo@ma4.seikyou.ne.jp