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『 最初の歌とノイズ』

(1999年 5月13日 NNL Vol. 15)


 人が生まれて初めて出逢う歌。多くの場合、それは子守歌ではないだろうか。記憶の始まる前から、その歌声は心の奥底に大切にしまわれているはずだ。そしてこの「最初の歌」は、人と音楽が関わる上で重要な意味を持ち続けるだろう。

 子供を眠らせるという目的上、子守歌は小声で歌われる。そのため、音程は制御しにくいし、子音や吐息によるノイズが普段より強調された歌声となる。正確な音程やきれいな声といった、歌に対する一般的な価値観とは相容れない。

 しかし世界中の多くの子供たちは、そういう歌を聞きながら眠りにつく。そして眠りの淵ではこの「最初の歌」が、他のどんな音楽的価値観にも先駆けて、心の安らぎに結びついていくだろう。

 多くの民族の伝統楽器には、ノイズを音色にブレンドする工夫が見られる。こうした人間のノイズへの愛着の理由を、直ぐに「最初の歌」に求めるのは喉元思案かも知れない。しかし、異国の楽器の音色に不思議なほど郷愁を感じる時など、もしかしたら、と思う。

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のどうたの会 嵯峨治彦 nodo@ma4.seikyou.ne.jp