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『 釣り糸馬頭琴』

(1999年 6月1日 NNL Vol. 16)


 モンゴルを代表する弦楽器モリン・ホール(馬頭琴)。古来その弦には馬尾毛(ばす)の束を用いる。しかしここ数十年、内モンゴルでは合成素材の釣り糸の束を用いるのが一般的だ。草原の伝統楽器に「釣り糸」とは、何とも釣り合わない話に思えるかも知れない。しかし、この新しい弦は絶妙なバランスを実現しているのだ。

 合成素材の導入はハイテンションな調弦を可能にした。これによって音色のキレと音量が増大し、結果として技巧的な独奏曲が増え、表現の可能性が大きく広がった。また、馬尾毛と違って湿度に影響されないので、日本のような多湿の国でも容易に演奏出来るようになった。

 そして特筆すべきは、こういった合理化の中でも「繊維束」という非合理的要素を残したことだ。愛すべきノイズに溢れた音色は、こうして現代モリン・ホールにも受け継がれたのである。

 今モンゴルでは、近代化の中で社会的混乱が続いている。釣り糸弦のモリン・ホールの音色は優しく何かを語りかけているように思える。

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のどうたの会 嵯峨治彦 nodo@ma4.seikyou.ne.jp