スタンス




●野花南の活動のスタンス

photo by HONMA Masayoshi (Shingakusha) 「語りと音楽」のアコースティック・デュオ=野花南は、「語りを音楽のように」、かつ「音楽を語りのように」楽しめるパフォーマンスを追求しながら、全国各地のライブ・ハウス、ギャラリー、居酒屋、教育機関、コンサートホールなどなど様々な場で活動を続けています。

 野花南の活動において常に気をつけていることの一つに、語りと音楽のバランスがあります。

 もちろん、物語や詩といった個々の「語りもの」の中で、言葉と音楽をどのようにミックスするかが重要なのは言うまでもありませんが、実はそれと同様に細心の注意を払っているのが、「語りもの」と「音楽もの」の、ライブ全体を通しての配置・配分なのです。両者が互いに引き立てあうようなプログラムを構築するために、文節ごとの小さなスケールからライブ全体の大きなスケールにいたるまで、最適なバランスを模索しています。

 その結果、野花南のライブでは、音楽とともに語られる「語り物」はもちろん、語りのない音楽のみの作品もたくさん演奏するようになりました。(そして、このスタイルは、ファースト・アルバム「マガリヤ」においても踏襲されています。)

 「語り」も「民族音楽」もどこまでも深い世界ですが、うまく組み合わせることで、きっとより多くの方にその素晴らしさをお届けできるはず。野花南は、幅広い層の皆さんに楽しんでいただけるような「語りと音楽」のライブを目指しています。


●「語りを音楽のように、音楽を語りのように」 / たなかたかこ

〜 語り手たちの会 会報「太陽と月の詩」No.17 ( 2006.12.1)

 馬頭琴という楽器があります。絵本「スーホの白い馬」でおなじみの、モンゴルの民族楽器です。私は、この馬頭琴の演奏家とユニットを組んで、9年前からコンサート活動を続けています。結成のきっかけは、ある馬頭琴のコンサートで「白い馬」の読み聞かせを依頼されたことでした。その後、モンゴルに伝わる「黒い馬」の馬頭琴伝説や世界各地の民話に興味を持ち、自分で再話した民話や童話・詩などの文学作品を、馬頭琴による伝統音楽や創作曲と組み合わせ、ユニットのレパートリーを徐々に増やしてきました。

 「語り+音楽」の作品を練る過程においては、物語の世界を言葉や音楽で案内する部分と、聞き手の想像力に委ねる部分のバランスを常に意識しています。

 例えば、語り中心の情景描写では、背景で流す音楽には輪郭のはっきりした旋律をできるだけ使わないようにします。一方、音楽に情景描写を任せる場面では、言葉での説明はちょっとしたヒントを出す程度にします。そして、どちらの場合でも、聞き手がイメージを広げるまで十分な「間」を取るよう心がけています。
 語りと音楽が個々に主張するのではなく、両者が寄り添い合うことで、ひとつのセンテンスあるいはひとつのメロディとなるような作品を演じること ─「語りを音楽のように、音楽を語りのように」─ それが、私たちのユニットの目標です。

 「語り+音楽」の世界をより深めていくために、今年から、世界各地の物語をその国に伝わる民族楽器の生演奏を交えて聴いていただくというコンサートシリーズを始めました。これまで、フィンランドの童話、各地のモンゴロイドの神話、そしてアイルランドの民話をテーマに、毎回その国の民族音楽を演奏するミュージシャンをゲストに迎えて作品を作ってきました。

 このような取り組みは初めてでしたが、打合せの段階からとてもエキサイティングでした。それぞれの地域の歴史や気候・風土などから生み出された民族楽器の音色が、最初の一音目からその国の物語の背景を雄弁に語り始めたのです。語りと音楽が互いに輝きを増していく相乗効果は、予想をはるかに上回るものでした。ご来場された方々にも大変喜んでいただけたようです。

 私が出演するコンサートに足を運ばれるのは、いつもほとんどが音楽好きの大人の方です。中には、「お話は子供に聞かせるもの」と思い込んでいる方もいます。そうした状況の中、かつては「できるだけ音楽の邪魔にならないような語りをした方がいいのでは」と、萎縮してしまった時期もありました。しかし、自分なりに試行錯誤を続ける中で、沢山の方から励ましの言葉やアドバイスをいただき、ようやく今、感動を伝える手段としての「語り」に小さな自信を持って取り組めるようになってきました。「語り」を通じて、コンサートに来てくださる皆さんと共に心温まるひとときを過ごすこと、それが語り手としての私の目標です。






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